男の子(閲覧注意)

現在、心霊スポットにもなってしまった場所で起きた出来事です。

これは中学三年の時の話。
期末テスト最終日で、学校も早く終わるからと友達と2人で釣りに行くことにしました。
当時ルアーフィッシングにはまってて、新しく買ったワームを使いたくて仕方がなかったのです。
この日は雲っていたけど雨の心配はなさそうだったので、少し遠い山の上にあるダム湖に行く事にしました。

行きは登り坂なので1時間弱の道のり。ダム湖は雨がしばらく降って無かったせいで、見たことないくらい狭い範囲にしか水が溜まってませんでしたけど、釣りするにはちょうど良いと思いました。どうせなら普段は行けないダムを渡った対岸側に行ってやろうと、自転車でダムを渡り対岸へ向かう事にしました。自転車を降りると荷物を持って、干上がったダム湖の水辺まで歩いて降り、周りを見渡すと魚の好きそうなポイントばかりで、2人ワクワクしながら釣りを始めました。他には誰もいなくて好きな場所を選べる状況だったので、私は水は少し濁っていたけど、大きな岩が沈んでいるのが見える場所に決めました。友達はダムの放水口の方に、私は沈んでる岩の周りを狙ってルアーを投げて、釣りを楽しんでいました。

ワームを使っていたので、投げて沈むのを待って巻き上げるの繰り返し。夢中で同じ作業を繰り返していると、突然何かに引っ掛かり全く糸が巻けなくなりました。「岩か石に引っ掛かった?」底を狙うワームにはよくあること。けれど買ったばかりで糸を切るのがもったいなく、引っ張ったり緩めたりして外れてくれないかと悪あがきしてると、重たいけど何か動いてる様に感じました。

デッカイ魚か?鯉?ナマズ?何かある。

友達も気になったみたいで来てくれました。「引っ張ると動いてるようだ」と伝えると、友達が「糸引っ張るから巻き上げて」と。友達が引っ張りはじめてちょっとした時に、「ゴツ」って音と感触が…。そして重たいけど先ほどよりも引っ張ればこちらに寄って来るようになったのです。

「さっきの音は?」「沈んでた木かね?」「折れた?」と会話しながら糸を寄せました。
「木にしては重たいよ。太かったら折れないだろうし。鯉かナマズじゃない?」と友達も同じ事を思ったようでした。
そして引っ張る糸の先に黒い物体が見えて来ました…水が濁っていて何かはわからないけど…何か付いてる…。
ゆっくりとこちらに寄って来る黒い物体…。友達が「ナマズ?」と言いましたが、私にはそれがズボンに見えました。「…何で?」と思いながら糸を巻いてると、友達も「ズボン?」と言い出しました。でも「ズボンなら重すぎるだろ?」と言って更に引き寄せました。水面近くになった黒い物体ははっきりとズボンとわかりました。私のワームは片方の足の裾に掛かっていました。

…が、おかしいのはこちらに寄って来るズボンの形…。両足をこちらに向けて上がって来るのです。ズボンだけなら、生地だけならあり得ない形…。友達と何度も「これズボン?」「ズボンにしか見えない」と言いながらゆっくり引き寄せました。そしてそのズボンの裾が遂に水面に…。

水面に上がった裾からは、泥と共に赤・白・ピンクと見たことない物が水面に広がっていきました。…そして物凄く臭い匂い…。

何が起こってるのか理解出来ない…。友達も全く動いてない…。これは何?この臭い何?

そして突然降りだした強い雨…。
理解出来ない光景でした。突然の強い雨で現実に戻り、友達に「糸切って!!」と叫んでいました。水面を見つめていた友達も我に返り、直ぐに糸を切って目を逸らす様に振り向きました。あのズボンがどうなったか見ることもなく、「帰ろう!!」と荷物を持ち、逃げる様に自転車に乗り、一気に山をに下りました。

お互い家の近くまで何も話さず、どうやってここまで帰って来たのかもわからず、気づけば雨は降ってませんでしたが、いつから降ってないのかもわかりませんでした。
ただ覚えているのは、ズボンと水面の光景と臭いと強い雨…。友達とそのまま別れて家に帰りました。この事は夜、親に話しましたが信じてもらえませんでした。「沈んでたゴミだろう」と。

友達は父親と車でダム湖に行きましたが、日が沈んで暗く、水嵩も増し足場がぬかるんでいたので水辺には行けなかったと。そして私と同じように「見間違いだ」「ゴミだ」と言われていました。

その後2人とも高校生になりましたが、あの日以来釣りはやらなくなりました。釣り糸が何かに引っ掛かると、あの時の事を思い出して体が動かなくなるからです。釣りをしなくなり、あの日のあの出来事は自分の内に封印し、忘れていたと言うか思い出す事はありませんでした。がなかった、あの新聞記事を母親が見つけるまでは…。

ある日学校から帰ると母親が新聞を手に「これあんたが言ってたやつ?」と言ってきました。新聞の記事には、あのダム湖の水の中に車が投棄されていたとありました。そしてその車を引き上げてる時に、近くで子供の上着とその中から人骨が見つかったと…。でも自分が釣ったのはズボン、しかも投棄された車とは反対側の対岸側でした。母親はあの日から私が釣りしなくなってるのは気になってたようでした。「一緒に行くから警察行ってみよう」と言われ、近所の交番に行って全て話しました。帰りながら思った事は、自分があの子の体を2つにしてしまったと…。「ゴツ」って音、水の中のズボンがあり得ない形で浮き上がって来た事、それはあの子の体がまだ有ったから…と。思い出す事がなかったあの日の記憶が蘇って来ました。

数日して刑事さんが「詳しい話しと場所を教えて欲しい」と家に来ました。まだ明るかったのでそのまま車でダム湖に行きました。

あの日とは違い水は満水。ダムの上を歩き何処かから下りて、あの岩のあった場所を上から教えました。そしてズボンの裾に付いているはずのワームと針と同じ物を渡しました。

数日後、またあの刑事さんが来ました。「ズボン見つかったよ」と言い,渡したワームと同じ物が裾に付いていたと。そして紙袋からズボンを出して「これだよね?」とデニム生地のズボンを見せてくれました。次にスタジアムジャンパーの様な上着を取り出し「こんな格好した子を見たことない?」と聞いて来ましたが、上下の服の大きさからして小学生低学年位にしか見えず、あのダム湖は山の上だし坂はキツイから、小学生だけで遊びや釣りに来る子は見たことないと教えました。

そして刑事さんは帰り際、ズボンから人骨は数点見つかったものの頭は見つかっていない、車の持ち主も不明、子供に関する捜索願いは何処にも出てない、と教えてくれました。

刑事さんが帰り、一緒に話を聞いていた母親が一言「一家心中かね?」と言いました。
でも「車より先に男の子はダム湖に沈んでいた」と言うと、死にきれなかった親がまた戻って死のうと車でダム湖に…?。でも車の回収時にあそこで大人の遺体は見つかっていません。

母親の言った言葉は合ってると思います。あの子は親を見つけたから車の所に行ったのではないかと。残った上半身だけで…。

あの子を2つにしたのは自分…。あの子の頭はまだあの岩の所…。そしてあのダム湖か周りの山の中にあの子の親は眠ってるのかもしれない。

今まであのダム湖で遺体発見の記事は見ていません。場所が場所なだけに自殺者の話は聞いてますが、あの子の親かはわかりません。あの子はいったい何処の誰なんでしょうか…。

暗く冷たい水の底にあの子はまだ眠ってる…。

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